仙台中本誠司現代美術館

〒981-0923 仙台市青葉区東勝山2-20-15 TEL・FAX 022-272-7100
http://www.seishi-nakamoto.com
後藤俊幸展“KANON”

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仙台の町中から外れ、高台にある住宅地。ここにある中本誠司さんの個人美術館。ここが今回の目的地です。
後藤俊幸さん。ちょうど去年のいまごろ、ギャラリー「エディット」での個展を見て以来ですね。

前回はなんの予備知識もなく訪れたので、驚きの方が大きかったのですが、今回は後藤さん本人にしても絵にしても、「お久しぶり」といった感じです。

人の顔にある各パーツ。それをあえてぼかし、ハッキリと描かない画法。初めてみる人には驚きを。再び見る人にはある種の安心感を与える絵。
キャンバスに描き足していくのではなく、どんどんと引き算をしていく絵。感情を読みとることのできないまでに表情を失った絵は、技法以外の、素直な感想を引き出していきます。色の強弱、色合いの好み。表情が無いだけに、単純化された感想だけを引き出してくれる不思議な絵。
感情を読みとれないということは、こちらの感情にも左右されないと言うこと。私自身の、その日の喜怒哀楽で、絵から受ける刺激も、毎日変わっていくような気がします。


(ちょっと照明の色に影響されています。)

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なんとなく、なんとなくなんですが、今のイラスト系の作品の多くが、単純化されたキャラクターに高細密な背景を組み合わせるという技法で描かれているような気がしています。描き込まずにはいられない。余白は敵だと言わん限りに。それでいて、中心に描かれているのは愛らしい単純造形のキャラクター。

今回。後藤さんの個展を見に行こうかと思った動機の一つに、後藤さんの持つ、引き算の技法。それを確かめたかった事があります。
あえて描ききらないことによって、鑑賞者の感想を無理に引き出さない。
情報多可の世の中にあって、情報の密度の高い作品は、その方向性が示し易く、安易に感想も引き出しやすい。かわいいと思わせる。怖いと思わせる。笑わせるための法則、泣かせるための法則。
それは…鑑賞者としての自分のレベルが、知らず知らずのうちに落とされているのではないのか?
いろんなくみ取り方があってしかるべき。しかし描かれた情報のノイズが、「こう思うだろう!?」と問いかける。
それって、どう?私自身の感じ方なのか?意図して制作者側が用意してくれた感じ方なのか?

後藤さんの作品をみて、私の目が、「こういうのもアリ」と判断してくれる。それだけで、今は満足。
感じ方の方向性の一つとして、後藤さんの作風があり、それが鑑賞者としての自分に、あらたな視野を与えてくれる。新たな経験値を得ることができる。そのことに、今は満足。

これから先、どんどんとレベルアップしていくであろう後藤さんの作品に、負けないような「見る力」を持ち続けていたいと、妙なプレッシャーを感じてしまう一日でした。