角田宇宙センター一般公開

annon2008-04-20


宮城県角田市にあるJAXAの総合技術研究本部。それが角田宇宙センターです。ココでは、主にロケットエンジンや次世代エンジンの地上燃焼試験や、ロケットに付随する部品の開発を行っています。

ちなみに写真は東地区にあるH2Aロケット第二燃料タンクの燃焼試験用実機。展示用に中が見られるようになっています。この大きさで約800kgしかありません。

今回の一般公開では、「ラムジェットエンジン試験設備」、「ロケットエンジン高空性能試験設備」、「高温衝撃風洞」の3カ所を中心とした西地区の展示と、東地区の管理棟展示室を見ることができます。

東地区は、普通の日も公開している管理棟がメインなので、普段見ることが出来ない西地区から見てみることにしました。

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ロケットエンジン高空性能試験設備

地上付近で燃焼を行う第一ロケットと違い、2段目になるロケットは真空中を飛ぶ事になります。
そのロケットをそのまま地上でテストすると、本来無くなっているはずの空気が邪魔してキチンとしたデータが取れないため、真空状態にしてから燃焼試験をする設備になっています。

・燃焼室付近


燃焼試験を行う実験室の先に蒸気を噴出する装置を仕付け、その蒸気の噴出する力で、実験室内の空気を抜いて行きます。
・施設内部の仕組みを分かりやすく見せるための装置。
蒸気の変わりに窒素ガスを使って真空状態を作ります。

実は、1段目ロケットと2段目ロケットでは、炎を噴射するノズルと呼ばれる部品の長さが違います。
空気に邪魔されない真空中では、噴出する炎が大きく広がる特性があります。

炎が大きく広がると言うことは、その炎を受けるノズルを大きく広くすることで、より大きな力を得ることが出来ます。
まるで、帆を張って海を進む帆船のように、大きなノズルになります。
ロケットエンジンは、噴出する炎と反対の向きに発生する反作用という力をノズルに受けて進んでいきます。

そのため、炎が広く、大きくなれば、得られる反作用も広い範囲で受けることが出来るので、ノズルを大きくすることで効率よく推進力が得られます。
逆に、大気の影響を受けて、炎が広がらない1段目ロケットは、重いだけの広いノズルは必要ありませんので、短いノズルが使われています。


地上にいながら、高空状態での燃焼試験をする設備。ここでは最近は、可変式のノズル。それも長さが変化するものの開発を行っているそうです。

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ラムジェットエンジン試験設備

ロケットは、積み荷として宇宙に持っていけるのは、全重量のわずか1、2パーセント。
あとは、14パーセントの燃料用水素と、71パーセントの酸素でできています。
ですが、大気圏中を飛んでいる間は外に酸素があるわけですから、その酸素を効率よく取り込むことができれば、71パーセントもある積載酸素を減らす事ができる…?
そんな点から開発されているのがラムジェットスクラムジェットエンジンです。
実験室内部。中央に置かれているのがスクラムジェットエンジン。

スクラムジェットエンジンは、タービンファンを回して強制的に空気を送り込むジェットエンジンとは違い、進行中に勝手に入ってくる空気を、先を絞った筒の中を通す事で圧縮し、その空気に燃料を噴射して推進力に変えるシステムになっています。


ただ、この形状では、離陸時などの低速では使えず、あくまで超高速時の加速に使用するためのエンジンです。
そのため、地上で試験するためには、エンジンを本当に高速で飛ばすか(角田から東京までわずか2分で飛ぶエンジンですよ?拾って帰るのが大変!)エンジンを固定して、エンジンの回りに高速の空気を流すかどちらかになります。
この施設では、エンジンの回りに高速の空気の流れを強制的に作り、その超高速巡航と同じ状態で燃焼試験する装置が組み込まれています。
時速800kmの空気の流れを作り出すのは、圧縮空気に熱を加えて噴射する方法を採っています。
空気を、満員電車に乗り込んだ乗客に見立てての説明。
ぎゅうぎゅう詰めになった満員電車のドアが開いたら、乗客がドッと出口に流れ込みます。そこからさらに、乗客の一人一人のお尻に火を付けてまわったら、もっと速いスピードで出口に殺到しますよね!?
…凄く分かりやすい説明を頂いたんですが…すごい乱暴な事やっているんですね(笑)

現在日本では、スクラムジェットエンジンを平和利用の為だけに開発しています。
ですが、他国では軍事利用。おもにミサイルの推進システムとして開発しているそうです。
部品点数が少なく、構造が簡単なスクラムジェットエンジン。最大の特徴は、噴射炎が小さい事だそうで、現在の人工衛星からの探知システムでは、発見が非常に難しいとのこと。
どの国から発射されたのか分からず、爆発した後も部品が残らずに、発射した国が特定できないスクラムジェット方式のミサイル。
何気なく見たこのエンジンが、恐ろしい兵器としての面も持っている。科学の2面性を見せられた気分です。

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高温衝撃風洞

予算に物を言わせ、実験機をバンバン飛ばしてデータを取れるアメリカとは違い、日本では実物大の実験機を作るのも大変です。
ならば、小型の模型を、実際の状態と同じ空間を作って試験すれば、同等のデータが取れるのではないか…?という点から建設されたのが、ここ高温衝撃風洞です。
ここは主に、大気圏突入時、超高速の空気の流れを人工的に作りだし、模型にブチ当てる事で実験データを取っています。

この細長い設備が、世界最大の長さを持つ、空気鉄砲「HIEST」です。
原理は、竹でできた空気鉄砲そのまま。


写真前部、オレンジ色の所から、圧縮空気でピストンを撃ちだします(秒速400m)その反対側には、ステンレスの板で塞いであります。
ピストンが通過する黄色い通路には実際にはヘリウムガスが充填されており、ピストンが走ることで高速に圧縮。150MPa・4000度の圧縮ヘリウムがステンレス板の中央を破断し、できた小さな穴から超高速で噴出し、その先にある実験機にブチ当たります。
その圧力は、大気圏突入時に相当し、宇宙往還機の形状データや、スクラムジェットエンジンの噴射試験に使用しています。

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施設東地区。
ここはもともと平日に一般公開している管理棟展示室がある場所です。
前に来たときには、管理棟の横にH−2Aのカウリングがあったんですが…無くなっていますね。

H−2A第二エンジン用燃料タンク。秋田県田代試験場で、実際に燃焼試験を行ったタンクです。エンジンは無くなってますけど。
総重量880キログラム。外部鋼板の厚みはわずか2、3mmしかありません。この内側に格子状に加工したアルミ合金を貼り付けて強度を出しています。

このアルミ合金。実は一枚板からの削りだし。…って全体の面積からすれば、残っている部分がほとんど無いじゃないですかっ!なんて贅沢な作りなんでしょう。
ちなみに中に見える丸いタンクは、ヘリウム(だったかな?ど忘れw)の入ったガスタンク。燃料を燃やし続けると、液体酸素も液体水素も少なくなってしまいます。そのままでは、エンジンに燃料が流れなくなってしまうので、ガスで押し出してやるそうです。
ちなみにこの丸いタンクはステンレス製。同じような構造が何個かついてましたが、全体の重量が100キログラムほど。タンク全体の重量880キログラムと比べると、極端に重い部品です。
表面が黄色く見える部分は、内部にある燃料が暖まらないように保温しているウレタン製の断熱材。100円玉の直径と同じくらいの厚みがあります。

今まで、ロケットは、筒状の胴体に燃料タンクが入っていると思っていましたが、実は表面に見える部分は燃料タンクそのもの。第2エンジンなどの部品のみ、カバーで覆っているそうです。し、知らなかったわ…。

あとは、クイズ大会とか、自転車をこいで馬力を測定する実験とか行っていましたね。



実はこの東地区は、隠れたお花見の名所だったりもします。



今年は、研究用施設が3つのみと、前にお伺いしたときよりも少なかったんですが、そのぶん、説明していただいたスタッフの方がそれぞれかなり気合いが入っていて、熱のこもった説明をして頂きました。技術的な細かい点を、専門用語をなるべく減らして説明するのは骨だったと思いますが、おかげで宇宙についての知識が少しばかり身に付いたような気がします。
当日担当のスタッフの皆さん。ほんとうにありがとうございました。